砂漠で溺死

「すごい自意識だなあ」と笑う自意識

『沖で待つ』 絲山秋子

 

沖で待つ (文春文庫)

沖で待つ (文春文庫)

 

 

表題作の「沖で待つ」と、「勤労感謝の日」の短編二編収録。

私は「勤労感謝の日」のほうが好きだった。

36歳の無職の女性が、ろくでもない男とお見合いして、その後渋谷で元職場の後輩と飲み、近所の居酒屋でまた飲む話。筋なんて追ってもしょうがない。

とにかく、この主人公は終始苛々している。冒頭から、

何が勤労感謝だ、無職者にとっては単なる名無しの一日だ。それともこの私に、世間様に感謝しろ、とでも言うのか。冗談じゃない。

とキレている。そのキレようはなかなかすさまじく、しぶしぶ受けたお見合いの席で相手の男性をけちょんけちょんに(心の中で)貶すシーンは、読んでいて笑ってしまう。

その後、主人公は目についたものに手当たり次第怒りをぶつける。確かに体調が悪い日にはこんなになるなーと共感するが、この主人公の場合、苛々の原因はいろいろあるだろう。必死で働いてきたのに報われないし、かすみたいな男に品定めされるし、世の中クリスマスだし。

しかし、主人公の人生の目標について聞かれると、彼女は「長生き」と答える。

別に長生きをしてなにがしたいわけじゃないけれども、私は死ぬのがイヤだ。まして人より早く死ぬなんて勿体ない。

よくわからない。この人、見るからに楽しくなさそうなのに。「早く死にたい―」とか言いそうなのに。

でも、「勿体ない」というからには、どこかでこれからの人生に対して少なくとも期待はしているのだろうか。そういうわけでもなさそうだけれど。

私は無意味に人生を長引かせるだけなら、後腐れなくすぱっと死にたい。いや、意味があるかないかは後になってわかるのかな。よくわからない。

とにかく、彼女は「何か釈然としない。何もかも釈然としない」と、不満を持ちつつ、愚痴を垂れ流しつつ一日を終える。でも最後は、すこしだけ人に感謝して。

なんだかんだ言いつつも、彼女は人生を楽しんでいるような気がするけれど、たぶん気のせいだろう。