砂漠で溺死

本と映画を、ネタバレ全開で書きます。

太宰治『ヴィヨンの妻』

 

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

 

 表題作の「ヴィヨンの妻をこれまでに何回も何回も読み直しているのだけれど、いまだにこれは、よくわからない。なんだろう、この女の人は。や、太宰は新しいタイプの家庭のモデルを提示したのかもしらんが、男の人に襲われても次の日変わらず出勤してる人って、なんなの。説得力、ないよねぇ。でも、なんかこの話好き。不思議な魅力。


太宰は自分を外から眺めるのが好きらしい。「ヴィヨンの妻の冒頭、酔った夫が家に帰ってくるのに対して、「おさん」の冒頭ではこれから酔いに行く夫が家を出ているシーンがあって、対照的。でもどっちにも出てくるのは浮気するだめ夫と、誠実な(?)妻で、多少の違いこそあれ、この本の作品に出てくるのは全てこのタイプの男女である。そういえば、太宰が描く「妻」みたいな女の人って、最近はなかなかいないんじゃないか。女性の男性化、男性の草食化が叫ばれて久しいが、こういう種類の人たちも、旧型の男女イメージからはみ出した存在であるので、そういう意味では、太宰が生きていた時よりも、太宰の作品を受け入れる土壌が、現代にはできているのかも。


今の時代、いわゆるステレオタイプの家庭像はほぼ崩壊しつつあり、別居婚とかもさして珍しくない。太宰を追い込んだ原因のひとつが家庭、だとするならば、彼にとって今なら少しは生き易い時代になっているのだろうか。いや、太宰にとって生きることが「易い」なんてことには、ならないだろう。だって、そしたら太宰じゃ、ないもんねえ。